奈良教育大学長 宮下俊也
奈良教育大学は、1888年(明治21年)に設置された奈良県尋常師範学校を起源とし、130余年の長きにわたって教員養成と教育研究に努め、奈良県はもとより、我が国の教育の発展に貢献してきました。また、2022年(令和4年)4月1日には、奈良女子大学とともに法人統合し、「国立大学法人奈良国立大学機構 奈良教育大学」として新たなスタートを切りました。今後は、本機構を核として、奈良国立博物館、奈良文化財研究所、奈良先端科学技術大学院大学、奈良工業高等専門学校等、奈良県内の高等教育・研究機関や自治体、企業、近隣にある関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の各機関と強い連携を図る「奈良カレッジズ」を構築し、本学学生の学修や研究の機会、人間としての視野や教養の幅を拡大します。
さて、本学は、2007年(平成19年)に大学として全国初のユネスコスクールに認定され、それに続き認定された全附属学校園とともに、「持続可能な開発のための教育」(ESD:Education for Sustainable Development)を推進しています。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成を教育の面から目指していくことでもあり、本学の重要な使命の一つとしています。また、幼稚園教育要領や学習指導要領の前文において、一人一人の幼児・児童・生徒を「持続可能な社会の創り手」として位置づけられたことに対応し、「持続可能な社会の創り手」を確実に育成できる高い教育実践力をもつ教員の養成と研修を、「ESDティーチャー認証プログラム」「ESD連続セミナー」「学ぶ喜び・ESD連続公開講座」、書籍『学校教育におけるSDGs・ESDの理論と実践』の刊行などによって、全国的に推進しています。
本学学生においては、東日本大震災や九州地方の豪雨災害被災地における復興支援や、ウクライナ難民支援の募金活動をいち早く始めるなど、教育課程に位置付けたESDの学びを生かし、持続可能な社会づくりに貢献しようとする行動が現れています。また、教員を目指しながら“11th UNESCO Youth Forum”や“Teaching Together Global Citizenship for Sustainable Development (GC4SD)”等、国際的に活躍する学生が増えてきている状況も嬉しいことです。
これらの実績を基盤に、今後は新設した「ESD・SDGsセンター」を中心に、ESDの実践・研究の国際的推進拠点として世界をも牽引していく大学になることに力を尽くします。
SDGsの達成をESDによって目指す本学は、それがスローガンとして留まることのないように、「奈良教育大学ダイバーシティ・インクルージョン推進宣言」を掲げ、本学に関わるすべての人々の幸福や平和を願っています。その宣言文は、日本語版、英語版、中国語版、子ども版によって構成されています。キャンパスに掲示されたこの宣言文を見て、幸福や平和を希求し、たとえ小さなことでもその実現に寄与する行動を起こし、やがて教員として自らの行動をともなってその尊さを伝えることのできる学生を育てることで、ユネスコスクールである教育大学として、その社会的使命と責任を果たしていきます。
「人・環境・文化遺産との対話を通した教育の追究」、「持続可能な社会づくりに貢献できる教員の養成」、「教員養成と教員研修の融合」は、奈良教育大学の柱です。この柱を核とする教育・研究によって、どのような時代にあっても普遍的に求められる教育実践力、新型コロナウイルスや戦争などの予期せぬ事態にも対応できる教育力、そして、世界遺産に囲まれた本学においてこそ培うことのできる感性、創造性、我が国の伝統文化や文化財に対する知識などを備えた教員・教育者として活躍できる人材の育成に、今後も努めて参ります。
2022年(令和4年)4月1日
奈良教育大学学長 宮下 俊也
宮下 俊也(みやした としや)
昭和36年9月21日生
芸術学修士,教育学修士
音楽科教育学